Entries

スポンサーサイト

運動靴がそら、舞い上がる直前のざわざわ

死体に雷が落ち、動き出して迫ってきたので真剣に走っていた。捕まるわけにはいかない。捕まればおそらく、ぼくは食べられるだろう。ばりばりと骨を噛み砕きながら、血を飲み、肉を食いちぎるのだろう。ぼくにはまだやりたいことが山ほどある。だから食べられるわけにはいかない。とりあえず走って逃げていた。死体はあまりはやく動けない。それはそうだろう、腐敗もしている。少し歩くだけで骨が剥き出しになった。さほど長くもた...

おい、本気か?

おい、本気か?本気なんだな?それならいいが、もしも本気じゃないなら、すぐにこちらへこい。迷惑をかけるな、みんな心配している。特に母親は心配している。とても心配している。本気ならそれでいい。ひと思いにぐさっと刺してくれ。俺は受け入れるよ。受け入れて飛び上がるよ。痛みなんて忘れるぐらい高く飛び上がるよ。俺はね、囚われの身だ。いわゆる命はお前が握っている。だから覚悟はとうの昔にできてるんだよ。最後にベー...

短編の感想を書いてみました、8月分 その3

小説家になる 8ワンアイディアで正直ありきたりな展開ではありますが、それを陳腐にするかどうかは書き手の腕次第。わたしはしっかりと、にやり、ができたので満足です。無駄がないんだよね。小説家、ってのは新しいのじゃないかな。そうでもないか。正油さし 7むつかしいですね、途中まですごくわかりやすくってすらすら読めたんですが、とたんにわからなくなりました。それは気になるニュースが流れたからではなくて、月が綺...

のら犬たちが呼んでいる

夜、草木も寝静まる頃、のら犬たちが吠え出して、ぼくは眠れない。のら犬は一定のリズムで、大きい声小さい声入り混ざった声で吠えている。まるで合唱じゃないか、こんなにのら犬が吠えることがあるんだな、とぼくはふと思う。ますます眠れなくなってベッドから降りる、スリッパを履くとひんやりしている。これはぼくの汗が冷えてしまっただけだ。部屋を出る。真っ暗闇の中を手探りで進んでいく。ぼくの家なんだからだいたいわかる...

橋本ビル2

すると橋本ビルはあれよあれよという間にちいさくちいさく縮小して、あたしの前にかんじのいい男の子が座っている。あらちょっといいかんじじゃない、とあたしは思った。男の子は橋本です、と言った。なんだか上の名前を呼び捨てにするかんじの間柄を望むような男の子。望むところだとあたしは橋本、と呼んでみた。なに、木ノ下、と橋本は応えた。あたしは木ノ下ではなかったけれども、あはん、と相づちを打った。橋本は前髪を手で...

橋本ビル

橋本ビルへの道順をよく覚えていない。迷子になってしまった夏の日にたどり着いたのが橋本ビルだった。もう二度とたどり着けないだろう。あたしは確信をもって言い切れる。橋本ビルには人がいない。商業施設として作られたものの、昭和のいい時代が終わる頃、店舗は撤退し、人々は去っていった。橋本ビルの持ち主は都会に消え、風の噂で東京湾に沈んでいると聞いた。あたしは橋本ビルに入ってしばらく座っていた。入ってすぐに階段...

シシシンデレラレラレラ

シンデレラ、いいこと、お前は生まれつき地位の低い人間です、それをまず自覚すること、自覚したら雑巾をかたく絞って床を拭くこと、終わったら夕食の用意、今日の夕食はきのこご飯とすまし汁、ほうれん草の白和え、デザートに枇杷よ、くれぐれも丁寧な仕事を心がけること。終わったって自由時間にはなりませんよ。自由時間なんて概念はお前にはありませんことよ、夕食の用意が終わったら、家の裏の草むしりよ。これは一日やそこら...

短編の感想を書いてみました、8月分 その2

顔 8夏ですなあ。こわい話がよく似あいますね。ちょっとわかりにくいところがありましたが、最後の、鼻を刺してからのリズムと言うか、言葉選びがうまくいってるんで、しまいまで一気に駆け抜けて行きました。おぼんやすみ 7ずいぶん文体が乱れているんですが、それはあえてでしょう。口語体の良さを採用した結果と。ノスタルジック、とにかくノスタルジックの風に乗せて漂うリズム感。言葉はふわふわと夜空を漂うだけでなく、...

飛行機、飛ばない

飛ばなければ飛行機ではない。それはただの鉄のかたまりであって、飛行機じゃない。でくの坊だ。いや、でくの坊はでくの坊なりの可愛らしさがあって、それはそれで役に立っているからいい。飛ばない飛行機ほど役に立たないものはない。それはただの鉃だ。おい、鉄、とキヨシは怒鳴る。お前はもっと自分が役に立たないってことを自覚すべきじゃないか、まず自覚することでうとうしさは少し消えるからね。そういうけれど、と鉄は応え...

飛行機は落ちない

飛行機は落ちない。そういう仕組みになっている。けれど時々飛行機が落ちるニュースが流れる。そのたびに飛行機は主張する。俺が悪いわけではない。悪いのは天候や操縦する人間やハイジャックや整備の不備などだ。飛行機自身が悪いことはひとつもない。でもね、天候やその他も含めて飛行機でしょ。とあたしは飛行機に訴える。すると飛行機はふて腐れたような顔をしてパフェをつつく。こうなったらもう何を言っても無駄だ。言えば言...

園長、青いスカーフを巻く

園長のトレードマークはなんと言っても青いスカーフ。遠くからでもすぐに園長だとわかる。あんなに目立つスカーフは貴重だよ。でも目立つからと言って、スカーフでは限界があるでしょう、なんて思うかもしれない。限界なんてありません。どこまで離れても青いスカーフは目立ったまま、全然色あせないし、光沢感もなくならないし、やかましい乙も鳴り響いているし、まあ便利なようで不便極まりないってかんじ。園長が青しスカーフを...

トーキョー・ストーリー

東京からきたのは甥のたけしくんだ。たけしくんはすまし顔でスカートをめくる。スカートをめくるけれど、その下にある(と言われている)ものは見ないんだと胸をはる。実際、目をつぶっている、ぎゅうと音がしそうなぐらいたけしくんはスカートをめくった後に目をつぶる。何の意味があるって言うの、と聞いてみる。「いいかい、スカートは最後の一枚だ、身体を包むものの最後の一枚なんだ、つまり、その下は身体そのものであるわけ...

どっと押し寄せる蝉時雨

蝉時雨よ、ぼくの声を消せ、と祈った。今更遅いのはわかっている。西に聞こえたのはわかっている。西は反応した。身体を震わせて目を閉じた。ぼくは待っている。意図的に待っている。これは期待だ。蝉時雨、少し遅れて押し寄せてくる。西は甘い息を吐く。なんて甘い意気だろう。それはさっきまでガムを噛んでいたからかもしれない。そういえばぶどうの香り、人工的なぶどうのどぎつい香りがふんわりと西の口から漏れてくる。ぼくは...

木の上に立って見るのがジェニファー

見上げるとね、立ってるのね、あれがジェニファーなんだっておじいちゃんが教えてくれたのね。ジェニファー、木の上に立って何してるの?って聞いたら、なあんにも、しとらんよ、なあんにもせずにただ見てるんだ。ふうん。おじいちゃんはしばらくジェニファーを見つめた後深いため息をついたの。すごく深いため息で、身体の中の空気が全部掃き出されたみたいだった。吐き出したら吸い込まないと成り立たないのが世の中です。おじい...

短編の感想を書いてみました、8月分 その1

故障す 7難解です。日々が淡々と流れていくよね、なんかね、っていうあるある?特異な状況に突然陥れられた男の独白でしたが、まったく悲哀感がありません。状況を受け入れることが前提で、受け入れた上でさあどうしようか、すべては神々の手のひらの上で踊っているのです。そんなメッセージをわたしは受診したのです。嘘つきな父 6重かった、嘘つきなのに、重いじゃないかあ。ほとんどしらないけど、なんとなく感動してしまう...

流れ落ちる植物群

今は夜ではない。けれど朝でもない。昼でもない。いつでもない時間というのが実在するのだろうか。信じれば実在するんだよ、と森さんは言った。あたしは森さんの言葉を信じる。だから実在するんだろう。空では大量の植物群が流れ落ちている。これは気のせいだろうか。気のせいなんかじゃないよ、と森さんは言う。植物群は定期的に流れ落ちるようになっている。これは事実だ。歴史的に見ても随分古くから決まっている。ほら植物群に...

この街は息ぐるし

逃げ出したい。今すぐ遠くへ逃げ出したいのだ。ぼくはこの街から飛び出して、もっと大きく強くなるべき存在だ。これからの世界のために、ぼくは逃げるのだ。逃げるという表現は良くない。負けたような気がするから良くない。ぼくはあくまでもいったん離れて、この街から距離を置く。すると街はきっとぼくを欲して喉を渇かせ、手を伸ばすだろう。ぼくという存在を飲み干して喉を鳴らすために手を。ぼくは避ける。巧みな体捌きでそれ...

アスファルトで潰れている蟹

庭のアスファルトの部分に蟹がいて、潰れていた。近くに水辺はないし、いったいどこからきたのか考えてみるが、わからない。蟹は潰れて随分経つのか、すでにばらばらで、蟻が集っている。蟻は蟹の手足やかぴかぴの内臓をせっせと運んでいる。ふたつの行列に蟹は運ばれていく。踏んだのはたぶんわたしだ。わたしが運転する車が蟹をつぶしたのだ。知らなかった。こんなところに蟹がいるなんて、わたしは聞いていない。だから、わたし...

万華鏡

修行僧が眼の前にあらわれ、真っ赤なひょうたんをかざして俺の気をそらし、俺の右乳首をむしり取った。さらに左の乳首さえむしろうとしたが、俺はそこまで馬鹿ではない。身を翻して避け、逆に修行僧の左乳首をむしってやった。互いの乳首を片手に持ち、俺たちはなおももう一方の乳首を狙っている。かなりの使い手なのだろう、修行祖はそれからいつまでたっても隙を見せなかった。遠くの空に花火が上がる。夏祭だった。修行僧の気が...

ナイチンゲールが鳴き出したこと

それは奇跡みたいな出来事だった。あんなに鳴くことを嫌がっていたナイチンゲールが、卵がするっと牛乳瓶に入るように突然、鳴き出したのだ。ぼくは信じられない、とつぶやいてみた。するとなにか自分が今まで苦労してナイチンゲールに鳴かせたがっていたように思えておかしくなった。別にナイチンゲールが鳴こうが黙ろうがぼくには関係がない。ナイチンゲールのだみ声など、ぼくにとってただの雑音でしかない。けれど、それだけで...

Appendix

プロフィール

なゆら06

Author:なゆら06
FC2ブログへようこそ!

月別アーカイブ

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。