転がる意味など知らぬ。俺は生まれる前から転がっていた。意識がハッキリしたとき、金魚鉢のそばをころがっていた。金魚はのんきそうに泡を吐いた。俺は心底金魚を馬鹿にした。あんな鉢の中に閉じ込められていて何が楽しいのだろう。恥ずかしくないのだろうか。俺だったら1日も我慢できないだろう。軽蔑の言葉を吐いて通り過ぎたとき、俺は指につままれて、ポッケに入れられた。永遠のような闇だった。...
からだの芯から冷えている女が、ぬくもりをもとめてやってきやがった。こいつは、並大抵のぬくもりじゃあ満足しない。相当コアな、カロリーの高いぬくもりを与えなければ。そんなわけで俺は今燃えている。ガソリンはたっぷりかぶったから女もろとももやしつくすだろう。さあ女よこちらへおいで、と手を広げるとはちきれんばかりの罵声だ。...
仕事に向かう私はカッコいい、と信じている。ぴしっとスーツを着込んで、高いヒールをかつかついわせて歩いている様は、仕事のできる女。まあ実際はそうでもないにしても、見た目って重要。私はかすかな笑みを携えて歩いている。シックな鞄を肩にかけ、これは向こうからの銃撃にも耐えられる仕様。髪はしっかりと束ねて結び、風を切って早足で歩いている。やがて頬に当たる柳の葉、こそばゆくってイラッとし、柳を叱り飛ばす。いき...
優しい、と思ったのは、手を添えてくれたから。私の手にあなたの手を添えて、それで溲瓶に性器をあてがって、放尿を促してくれた。全然嫌な顔をしなかったし、職業だから当然、という顔もしなかった。ごく自然に、あなたは手を添えてくれた。あとできたら、そんなことは当たり前だと笑われた。あなたのその屈託ない笑顔にすくわれる人がどれぐらいいるだろうか。私がそのひとりでよかった。そのひとりじゃなく、なにか特別な存在に...
虹じゃないと言い切ったけれど、本当は虹だと思っている。あくまでも言い切ってみたのは、ただのつよがりだ。つよがってみたくなるときがだれだってあるじゃないか。私はそのとき強がりたい気分だった。虹以外に何者でもない、あの薄ぼんやりと空にかかった曲線に手を伸ばしたり、私は演じていた。不思議な存在としてあり続けることのメリットを思って。虹はすぐに消えなかった。虹がいつ消えるのか、論争は続いているが、私はその...
きゅうきゅうしゃやくざいししろくじちゅううばぐるままんとひひひしゃくくまもんもんぶらんらんばたたいいくきょうししろくじちゅううばぐるままんとひひひしゃくくまもんもんぐらんらんどりりずむめろでぃいんびなかっこううばぐるままんとひひひだりててるみんみんしゅうのえごよよくぼうだらけのぼくどうしよううばぐるままんとひひひんにゅううばぐるままんとひひひらりとちょうちょううばぐるままんとひひひるなんですすーぱ...
増殖をはじめたのは今朝からだ。ベッドの隅でなに食わぬ顔をして増えている。2体が4体、4体が8体と倍、倍に部屋はぬいぐるみで埋め尽くされていく。わたしはといえば、それを止めることもできずに、ぬいぐるみに押しつぶされそうになっている。増える速度はそれほど速くないが、なにしろ増えるたびに倍になるものだからもう、間もなく部屋は破裂するだろう。ぬいぐるみは飛び出し、次は家、村、町、都市、日本、世界、宇宙、と...
それ、だれのたましい?おれの?おまえの?ちがうの?じゃあだれのたましい?わからないなら話にならないから、まずそれだけはっきりさせておこう。これはだれのたましいか。簡単なことだろうよ。少しつまんでみよう、ちぎれそうになったら生命力の弱い人、老人、もしくは病人。しっかりとかたまりになっていれば若い。つづいて匂いをかいでみよう。生臭いようだとしつこい性格だ、すっきりした柑橘系なら、さわやか3組、と言いた...
活動と言ってもね、別に大層なことは何もないのよ。ただ、牛乳を注いでは飲み干して、ドーナツを齧り、指についた粉砂糖を払う、時々聞こえてくる鳥のさえずりに春を感じて、雨が降れば洗濯物のことを憂い、雲の動きを観察して、あれは象のようだ、とかつぶやいて、植物に話しかけて、答えてもらえるのを待っている、体温計で熱を測って記録する、本を読む時は適度に休みつつ、爪が伸びてきたらこまめに切ること、動物を傷つけてし...
あの花は、たしか地獄に咲くというとしたらここは地獄の一部なのちがうよちがう、地獄はもっと混沌と欲望疼く世界として花を受け付けたりせずにいるけれどあの花は、地獄に咲く花地獄でなかったらここはどこなのここは地獄に成りえなかった場所地獄に憧れつづけている場所地獄の舎弟つまり花が咲いているということはもうすぐ地獄に成るってことかいいや残念ながらそれはもう叶わない舎弟はあくまでも舎弟その後、兄貴に成りえない...