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アゲハ

ドアーを開けて外に出ると、黄色がふぅらりふぅらりと舞い、近眼でたまたま眼鏡をかけていなかった私はそれがアゲハチョウであると気付くのに少し時間がかかった。なぜか分からないけれど、私はそのアゲハがどうしても10年前に死んだ祖父であるような気がした。アゲハはしばらく観察するように私と恋人の近くを飛び回り、やがて家の中から出てきた祖母の「あれま」という声に、はっとなって視線を逸らした次の瞬間にはどこかに消えてしまった。「よくきたね、おやおや」と祖母は状況を察して微笑む。
来年の春に結婚します、という報告をするために私は恋人と、祖母がひとりで暮らすこの家にやってきた。私が恋人といっしょに暮らしている町から祖母の家は、国道を1時間走り、高速道路で4時間走って、それからさらに国道や県道を2時間走り、ようやく着くという、まあとにかくちょっとした距離がある。おいそれと毎週来るわけにも行かない距離がある。もちろん祖母に紹介するためにここに来たわけだけれど、私は、私を可愛がってくれた祖父にもちゃんと恋人を紹介するつもりだった。祖父にも私のそういう想いが伝わってるんだ。だからアゲハチョウになって会いに来てくれたんだ。

翌日。夕方頃にその日ずっと降っていた雨が上がり、それで私と恋人は散歩がてら祖父の墓参りに出かけることにした。石を蹴っ飛ばしながらしばらく歩道を歩いて、時々抜け道らしき小道を抜けて、少し怖い暗い杉林の真ん中にある細い道を通リ抜けると墓地にたどり着く。それほど広くない敷地内に墓石が並んでいる。お盆も過ぎているし、もう暗くなりかけているし、やはり誰もいないのでしんとしている。祖父の墓に近づく、と、黄色のアゲハがそのすぐ上をふぅらりふぅらりと舞っていた。やっぱり祖父が私と恋人を見に来ているんだ。私はロウソクに火をともし、お墓に向かって、ふぅらりと飛ぶアゲハに向かって、「おじいちゃん、私はこの人と結婚します。幸せになります守っていてください」とお願いをする。するとアゲハは、うんうんというかのような不思議な飛び方をして、やがて森の中に消えていった。風が吹き抜けて、また雨が降りそうです。

たった2日間ではあったけど、本当にゆっくりと過ごし、祖母の作った美味しい野菜をたっぷりと食べ、私と恋人はちょっぴり太って祖母の家を後にした。「いつでも待ってるからね」と言う祖母の言葉が妙に心に響いた。
いくつかの高速道路を乗り換え乗り返して機械的に距離を重ねる。私たちが暮らす町までもうあとわずか、サービスエリアで最期の休憩をしていると、どこからともなく、ふぅらり、ふぅらり、黄色いアゲハが舞って近づいてきた。私はあっと思わず声をあげそうになったけれど、アゲハぐらいでいちいち声をあげたりしたら、恋人は呆れるに違いない。だからぐっと我慢して舞っているアゲハをじいっと見ていた。それはサヨォーナラサヨォーナラといっているかのように、少しづつ高く高く離れていって、やがて空と見分けがつかなくなった。私はそっと、ほんとに声にならないぐらいそっと、「ありがとねおじいちゃんさようなら」とつぶやいて恋人の手をぎゅうと握り締めた。恋人は、急にどうしたの、という顔をして、それでも何も言わずにぎゅうと握り返してくれた。恋人の手はとても温かくて頼もしくて、だから彼のことがもっともっと好きになって、それで私はなんとか涙をこらえることができたんだ。

きっと、実際はそれぞれ全く別のアゲハだったんだと思う。いくつかの偶然が重なり合ってたまたま、よく似た黄色いアゲハが飛び回っているところに遭遇しただけだと。
そうに違いない。
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