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あくび

 あなたはあくびを殺しながら私の右腕に腕輪をつけた。ふたりおそろい、しろつめくさで作ったの。
 「ではいきますか」あなたの声がやけにのんびりと聞こえる。
 「うん」「寒くない?」「大丈夫」「では」「はい」あなたは私の手を握った。ほんわりと優しいぬくもりが伝わってきた。冷たいなあ、とあなたは夜空にむかって笑いかけ、暗い穴に入る。手を引かれた私は振り返る。しんしんと雪の降ってくる空を見て、少しのあいださよならね、ってつぶやいた。
 穴の中には乾いた枯葉がたくさん置いてあって、お日様の香ばしい匂いがした。
 枯葉の中にせーのって沈み込む。
 かさかさと音が鳴って、なんだか少しこそばゆい。

 初めての冬、私は少し興奮していた。だって、春までの間ずっとあなたの匂いが、体温が、寝息がいつでも右隣にあるのだから。はっきり言えば私はちょっとエッチな気分になっていた。そんなことをあなたに絶対言わないけれど、実は濡れていた。
 なんとなく落ち着かずに、寝る体勢を微調整し、その度に鳴るかさかさが妙に気になった。
 もしもあなたがすぐに眠ってしまって、かさかさが気になる私は、そういう変な興奮をしているせいで眠れなくて、ずっと起きている事になったら・・・。
 考えれば考えるほどもっと気になって、怖くなってくる。思わずあなたの手をぎゅうと握る。
 「どうしたの?」とやさしいあなたは聞いてくれる。
 「ちょっと足の先が冷たくなっちゃった」と私がごまかす。何を隠そう、私はつよがりなのだ。
 「じゃああたためたげるよ」
 あなたは足でゆっくりさすってくれた。かさかさ、がさっきまでとは全然違って聞こえた。「だいじょうぶだよ」と言われてる気がする。なんかふわふわして、思わずあくびがでた。少し遅れてあなたもあくびをする。私のがうつったんだ、と思うとなんだかうれしくて、可笑しくって、うふふ、と笑ったら、あなたも、うふふ、と笑った。
 
 あなたは穴にたんと蓄えてあるどんぐりをひとつつまんでかじった。こりこり、って美味しそうな音がして、私も急に食べたくなる。できるだけまん丸で美味しそうなのを選んで、口に放り込んだ。思った通りこりこりでとても美味しかった。私はどんぐりをもうひとつつまんでそれをかじりながらつぶやく。
 「ねえねえ、春になったら、野原で寝転がろうね」
 あなたはもう眠たくて眠たくて仕方がないというふうにゆっくり答える。
 「また、ねむるの?ハル、ねむるの、好きだねえ」
 やわらかい陽だまりの中で隣にいるあなたとその陽だまりを感じたいんじゃないのもう鈍感。って言いたいけど悔しいから口には出さず、かわりにあなたの左腕にあるしろつめくさの腕輪を触って、解けていない事を確かめた。
 あなたは大きなあくびをして、おやすみ、とささやいた。もう寝息を立てている。息を吸って吐いて、あなたのお腹が動くたびにちいさくかさかさと鳴る。おやすみ、と答えて私もあくびをする。あなたのがうつったんだ。やっぱりうれしくなって、手をまたぎゅうと握った。こうしてたらぐっすり眠れるかな、と心の中でそっとつぶやいた。「だいじょうぶ」ってあなたが応えた気がした。「春まで、ちゃんとつないでて、はなしちゃいやよ」「だいじょうぶ」
 なんだかあなたの夢を見れるような気がして私は、急いでどんぐりを飲み込んだ。
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