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もしも仮に

ミルクを飲もう、とあなたは言った。ホットミルクがいいわ、と私は言う。
「いいや、アイスじゃないとミルクの味がぼやけちまうよ」
いいや、あなたがそんな口調するわけがないと私はもう一度、やり直す。
ミルクを飲もう、ホットミルクがいいわ、
「いいやアイスやないとミルクの味がぼやけるがな」そうだ。
ぞんざいだけれど何となく味があるそんな口調だった。
先に進める。
「ホットじゃないとおなか壊しやすいでしょ、すぐ壊してしまうんだから」
「ちょうどええがな、最近便通の調子が悪てこまっとったぐらいやし」
「でも、それならホットだっていっしょだって、牛乳が身体の調子を整えてくれるからアイスじゃなくても大丈夫」
「ホットなんて軟弱なもんのめん」
「そんなこといって、猫舌だから嫌なんでしょ」
「は?あほか、お前」
あなたは信じられないと言う顔で、全く納得のできていないまま私を睨む。
「いや別にふたりともアイスで飲もうというわけやないで、そちらはホットでもココア入りでも飲んだらええ」
「私は」と肩のカナリアは飛立つ、「私はただユキヲくんの身体を心配して」
「ええねん、そんなんええねん、迷惑やねん、まじやめてくれる」
いや、いいやあなたはそんなこといわない。いわない。やり直し。
「そうなんや、ごめんそれやのに俺ひどいこというた、ごめん」
カナリアは部屋中を飛び回って泣き喚く、ここからだせここからだしやがれ。
「ううん」私は首をびゅんびゅん振って答える。「私もごめん、意地になってた、無理強いするのはよくない」
「わかったホットミルクにするわ、身体に優しそうやし」
「ありがと、身体には確実に優しいよ」
私は冷蔵庫からパック牛乳を取り出して、しかるべき分量をミルクパンに入れてガス栓をひねる。
カナリアが戸棚の上にある、くまのぬいぐるみにとまる。そとにだせそとにだしやがれこのやろう。
ミルクパンの中のミルクは沸騰する。ぐつぐつ。
キッチンの窓を開けると、カナリアはそこをめがけて飛んでくる。逃げ出そうとしているのか。私は逃がしてはならないと窓を急いで閉める。ガツンという音がする。カナリアは間一髪のところで外に逃げられない。わたしの手の中にある。
「ミルクまだ?」あなたはリビングのソファの上からこちらを見ずに尋ねる。
あなたは今、録画した映画に夢中なのだ。
「もう、できます、待ってて」
カナリアは頭を強く打ったようで、動かない。私はカナリアの首を持って力を入れ、止めを差してから火を止める。ミルクからは甘い匂いが立ち上っている。猫舌のあなたはきっと、長い間飲むとができないだろう。そして、だからホットは嫌なんだとかなんとか私に文句を言うのかもしれない。
でもいいでしょ、私が飲みたいんだから。
私はカナリアを燃えるゴミに入れていいのか、燃えないゴミに入れたらいいのか随分長い間迷ってから、燃えるゴミに入れてミルクをマグカップに注ぐ。とくとくとく。
ミルクの膜がめくりあがって、私をぞっとさせる。これはなんの物質なのか、とてもぞっとする。
できることならその膜は消してしまいたい。そんな特殊能力はないから、それを見てみぬふりをして私はお盆にマグカップを二つ乗せ、リビングに運ぶ。あなたは映画に夢中。
えっ、えいが?
あなたは映画なんて見るような人じゃない。
違う、これは間違いだ、私の理想がごっちゃになっている。やり直す。
あなたは人生ゲームをひとりでしていて、ちょうど今佳境、子どもも4人生まれているし、デザイナーになって年収は2億円、断然トップでゴール間近。あなたは次第に熱を帯びていく、最高記録が出るかもしれない、獲得金銭の最高記録が。その中に私はホットミルクを持って入ってくる。派手な音を立てて転ぶ。あなたが育てた短いマッチ棒みたいなコマ、どんがらがっしゃん。台無しになる。ホットミルクは薄い絨毯に飲み込まれた哀れな液体。カナリアが鳴いている。燃えるゴミの袋の中でカナリアが鳴いている。おぼえてろよおぼえてろよてめえ。
私はあわてて雑巾をキッチンからとってきて、絨毯を丁寧に拭くの。
そしたらあなたは笑ってくれるかしら。
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