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徒党を組む

 共通の目的があった、それだけだ。
 目的のために私は手段など選んでいられなかった。その過程など、誰にも関係ない、つまりは目的を達成することのみに集中すればよかった。それをもって私は鳥になる、若鶏のから揚げになる、大きく羽ばたける、羽ばたいてよくしなる弾力と肉汁を存分に含んだところで、首をはねられから揚げになる。そういうことだった。
 湯気がのうのうと、とどまることなく上がり続ける天井は、水滴の群れ、そこから落ちてくるしずくはやはり若鶏の味がした。レタスの弾力はパチンコをはじけば致命傷を与えられるほどで、そのレタスのさきさきした歯ごたえば、何もんにも代えがてえ。ある芸術品だといっても過言ではなかった。
 満を持してマクドナルドの刺客現る、誰かがつぶやいた。そんな風につぶやける神経を疑う。
 ひゅーう、と息を吐いた。落ち着け、まず平常心になり、そこからはじめたほうがよい。ベストの仕事をするだけだ。私に課された任務を、落ち着いて遂行すればそれでよい。
 目の前にあるフレッシュチキンバーガーは、重ねられて壁を作っていた。私を、この寄せ集めのメンバーを向こう側へ行かせぬために、何がそんなにムキになって私を拒むのかフレッシュチキンよ。私は考える。彼もまた、私と同じように集められたものたちなのかもしれない。仕方なく私たちに向かい、私たちを、本能に従って拒んでいる。馬鹿どうしか、私はほんの少し憂う。何も知らないものが憎しみあい、戦いあい、傷つけあい、残るものは何もなく、それを高見にたって見物している金持ちが、目の奥であきれたように笑うだけ。まったく馬鹿げている。あるいは、私はありえないと思いながら想像してしまう。目の前にいるフレッシュチキンバーガー、幼い頃生き別れた兄かもしれない。兄もまた、私と同じような境遇にあり、私と同じように金で雇われ、金持ちの暇つぶしに付き合わされる。確かめてみよう、と私は思った。何もかも終ったら、終ったら。その些細な思い付きがとても楽しみに感じて私はしばしの間、目を閉じる。その思いつきがしばし私を支配する。
 兄と旅行をする私、兄はいつもとは違ってチリソースをかけている。おしゃれしているのだ。私たち二人は、別府あたりのしなびた旅館宿でくつろぐ。私は兄のチリソースをほんの少し舐めておどける。兄は怒鳴るがそれが本気でないことはわかる。私たちは血を分けた兄弟であるそれぐらいわかる。やがて私たちは温泉に浸かり、次第にしなびていくレタスはりはり具合はなくなっていくが、それもまた温泉旅行の楽しきところよ。
 戸を開けると、フレッシュチキンバーガーはさらにそびえ立っている。先ほどよりもさらにさらに。生唾を飲み込んで私は兄との旅行の映像を振り払う。今は、そんなことを考えてでれでれしている暇はない。私は選ばれた戦士である。戦う姿勢を見せなければならない。
 テンチョーが現れる、ようこそわが地獄のキッチンへさそかし腹ペコでしょうね、などと言っている。テンチョーはレフリーとしてこの場に立ち会うらしい。いいだろう、それはすなわちフレッシュチキンバーガー側に有利な条件と言えなくもないが、ハンディとして、くれてやろう、でないとバランスがとれないし。
 「制限時間は1時間です、それいないに食べ終わったら、あなた方の勝ち、ひとつでの残したら店の勝ち、いいですか?それから助っ人は禁止です、今いる5人以外の人が食べたら反則ですからよろしく」
 「よかろう」リーダー面して、三宅が応える。
 お前にリーダーを任せると誰が言ったか、と私は突っ込みたいところであるが、そんな大人気ないことはしない。私は聡明なのだ。聡明でさわやかボーイさ。
 「では早速はじめますよ」テンチョーはストップウォッチを構える。
 そんなチープな道具でこの戦いを測ろうというのか、なんと嘆かわしいことよ。私はしかし、そんなものは必要ないだろうと高をくくっている。図るまでもなく私の胃袋に吸い込まれていくことだろうよ。
 「はじめ!」
 静かに始まったその戦いを、後のものは「フレッシュチキン・チリソースの戦い」と呼んだという。
 先ほど迷いなくリーダーは自分だといわんばかりの受け答えをした三宅や、名前も知らん何人かの奴は我先にと勢い込んでかじりつく。マヨネーズやらにゅるりとパンとパンの間からはみ出て、衣服にかかり、匂いを放つ。それにしてもこの下品さなんとかならんのか、私は嘆きながら、一呼吸置く。
 「西田!何やっとるか、はよ食わんかい」
 チキンを咀嚼し、肉汁ぶちまけながら体格のよい古川が叫ぶ。まったく筋肉馬鹿はこれだから嫌なのだ。もう少し落ち着いて考えて欲しいものだ、と私は顔をしかめてやり過ごし、それでもさすがにそろそろ動き出さないことにはここにいる意味がないわけだから、と頭を左右に傾け首を鳴らした。
 フレッシュチキンバーガーの壁は壁として変わらずに目の前にある。必死に食いつく男4人の哀れな姿。その4人に私は今、混ざって哀れな5人として、永遠に語り継がれるのであろう。テンチョーは、仕切り、と言う大きな仕事が約半分は終ったものだからだらしのない表情で、顔についた肉も垂れ気味である。無言でストップウォッチと私たち哀れな5人を見比べて、フレッシュチキンバーガーの勝利を祈っている。
 私たちが勝利した場合、その際にもたらされるものはフレッシュチキンバーガーであった。無限ループに迷い込んだような気さえするが、フレッシュチキンバーガーの壁を食い尽くしてもそこに現れたのはフレッシュチキンバーガーなのである。いらんわいそんなもん、と当然声があがるところであるが、そこは、徒党を組んだ私たち、別ルートからの補助を受けることになっている。それこそが私たちの真の目的である。何が楽しくて、フレッシュチキンバーガーいくらでも食べる権利が欲しくて、フレッシュチキンバーガーの壁を食うことがあろうか。少なくとも私はそうだった。
 そびえ立つフレッシュチキンバーガーと対峙する。音を立てて食べる面々、むしゃむしゃとよくもまあそれだけ下品に食べられるものだ、と思いつつも、なりふりなど構っていられない、さて、私も。
 兄さんごめん、と言いながら私は兄に噛み付く。マヨネーズソースが一つ目だと言うのにこの存在感で持って私を混乱させる。これは厳しい戦いになりそうだ、かじりついた瞬間そう思った。激しい後悔が襲ってくる。この濃い食い物、いや兄を食べ続けなければならないなんて、恐ろしいことに首を突っ込んじまったなあ。というのが正直な感想である。
 30分が経過した。
 早くもである。すでにリーダーをはじめ、下っ腹を叩いて、所在無げな目、空ろな目、スタートダッシュをかけすぎて、まだ依然として壁は立ちはだかっているのに。私は兄さんを食べ続けていた。ペースの衰えていないものは私と、古川ぐらいである。なんのためにこいつらはここにやってきたのか、なりふり構わず20個ほどフレッシュチキンバーガーを食いに来ただけだったのか。なんと言う情けない奴らだろう、私は悪態をついた。そういう私も限界は限りなく近かった。壁はぶくともせずに唖然となるほど動じずに私たちを見下ろしていた。兄の背中は広いなあ、私はおぼろげな記憶を思い浮かべてひそかに涙していたのだった。

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[C450] Unknown

青春沖縄を満喫する社会人アクエリアスさん返信遅れましてごめんなさいどうもヘルシンキから帰国しましてからの和食の美味さひとしおなゆらです。

ようこそおいでやす京都へ、10月ちょうどいい季節ですね、中心部に住んでないんでエラそうなことは言えませんが、何度か足を運んだおすすめお店さんはありましてとにかくすすめときます。

時間がないとなかなか行けないちょっと分かりにくい所に或る京都の有名本屋恵文社一乗寺店(http://www.keibunsha-books.com/misc/index.html" target=_blank>http://www.keibunsha-books.com/misc/index.html)と、ここのカレーは現在わたしの中の外食カレーランキング堂々第一位二条駅から歩いて10分ほどおばんざいカフェ百音(http://cafemone.blog81.fc2.com/" target=_blank>http://cafemone.blog81.fc2.com/)です。恵文社はいろんな所で紹介されてますが、雑貨やら作品展やらとともに独自のセレクションで並べられている本を読んでいるとついつい長居してしまいます。百音は雑誌なんかでは見たことないんですが、ここのレンコンやら豆やらがたっぷり入ったほのかに甘みのあるカレーはわたし大好き、他のメニューも捨てがたしおすすめです。

ではでは、間違っても補導されない程度に聞いて回ってください。
  • 2009-09-27 18:01
  • なゆら
  • URL
  • 編集

[C451] Unknown

今度京都に行くことになりました。10月の3連休です。なゆらさんに一目お会いしたいのですが、残念ながら自分はなゆらさんの外見を知らないので、すれ違う人全員になゆらさんですか、なゆらさんじゃないんですか、と聞いて回ることになりそうです。そういう人を見かけたら極力関わり合いにならない方がよろしいかと思います。あとお勧めの食べ物屋さんとかあったら聞いておきましょう。
  • 2009-09-21 19:40
  • アクエリアス
  • URL
  • 編集

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