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壇一雄 1976年1月2日 その3(日本死人名辞典)

朝、一雄は再び苦しくなる。
この苦しさと言ったらなんだ、なんだ、もう言葉も浮かばない。
だから歌うことにする。思い切り歌い上げればいい、そうすれば少し勇気が出るはずだ。

そうさ忘れないでみんなの夢を、愛と勇気だけがトモダチさ?

何度もそのフレーズだけをリフレイン。病室に愛や勇気があふれる。
愛や勇気はしかし病魔に対して何もしない、黙りを決め込んでいる。
一雄は腹が立ってくる。愛、勇気、オマエもか。

がらがらどっしゃん、ドアが開いて看護婦が入ってくる。
私服だ。スリットの入ったスカートはむちむち、大変セクシーで一雄は少々興奮してしまう。
看護婦は「ふん、つまらん男やでえ」と吐き捨てる。
「さあ、ぼくをどうするつもりだ、いったいなんだ何が目的か」
「目的なんざ何もないよ、私は有名人と寝たいだけの女、うふふふうふ」
「何がおかしい、何がおかしいんだ、そんなに可愛く笑いやがって!」
「なんでもないよ、大先生、そろそろ未練はないんじゃないかい?この世に」
「そんなことはないぞ、ぼくはまだこの世に未練がたくさんあって、だから死ぬわけにはいかないのだ」
「何がしたいのさ」
「ぼくは、ぼくは、ぼくは・・・わからない」
「ほら、何もないんだよ結局ね」
「そんなことはない、そんなことは断じてないぞ」
「じゃあ、言ってご覧」
「ああ、何も思い浮かばない」
「ほらほら言ってご覧なさい、好きなことをなんでも言ってご覧なさい」
「ああ、わからないぼくは何をしたいんだ、思い浮かばないどうしてなんだ」
「さあ大先生、愛人もきてるわよ」
「ええ!きてるの?」
「どうも、愛人です」
「うわ!きてる!」
「さあ、先生助平な女ふたり、何をしたいの?」
「えーと、ぼくねえ、あのねえ」
「なに?いってごらんぼくちゃん」

一雄は息を引き取る前、最後にこういった。
「とても苦しいんです。とても眠いから、もう寝させて」
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