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ひどすぎるよ、うそばっかり

嘘が必要な時もある、と父は言いました。
「いいかよく覚えておけ、生きるために嘘をつく。たとえそれが誰がかを傷つけたとしてもだ。この世の中を生き抜くために嘘をつく。それのどこが悪いのか、むしろ誇るべきだ」父は昆布茶を飲みます。昆布茶はお取り寄せ高級品で、それも父の言う嘘によって得たものなのでしょうか私は少し混乱しながら私の分の湯のみを手に持ち、そのあまりの熱さに驚きそちらに神経がとられた。
「世間では俺たちのことを見せ物だとか、臭い芝居だとか、勝手なことを言うが、それの何が悪い、オマエがやってみろ、と俺は言いたいんだ。馬鹿野郎が。こっちだって苦労してるんだ。リハーサルは1年に及んで、俺は仕事なんざ何もないプー太郎、失職するわなああ、リハーサルに一年つきっきりじゃあ。俺の担当するベルトは止まってばかり。俺のあとの西口さんはいつまでたってもハンバーグにソースをかけられずに待っているって言うのに。もうこれ以上ベルトを止めるわけにはいかないから俺は仕事をやめたんだ」
私は再び話しだした父の目を見ました。父の目は完全には死んでいませんでした。あれだけ罵声と暴力を浴びせられて、完全に世間から排除された父はもう瀕死かもしれませんが、完全には死んでおらず、これから起き上がって雄叫びを上げるだけの勇気や体力は残しているようでした。私は昆布茶をふーふー冷まして、ひとくち飲む。ごくりという音が部屋に響きました。父の焦点の合わない目に光が宿ったような気がしました。
「そうだ、そんなにいうのならばいっそのこと」
父は立ち上がりました。私は何も言わず、さらに昆布茶をすすりました。熱い昆布茶がのどを流れていきました。
「香織、俺はまだやっていける。だから信じてくれ、ついてきてくれ、頼む」
小さくうなづき、湯のみを机に置きました。ことん、と音が鳴り、私は出そうになったため息を必死で押さえたのです。
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