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トノサマバッタはまだあたたかい

私が掴んだバッタは全くじたばたせずに、ぼんやり私のほうを見ている。
その口がよく観察しているとぱくぱく動いていて、その動きを追うとなにかしゃべってる。
「離せ、この豚やろう」
豚とは穏やかじゃないねえ、私はちょっと下っ腹は出ているかもしれないけれど豚ではないし。
バッタが動き出す。見逃してくれたらきっとお礼をするよ。いつか、君の為に働こうと思っている。
便利なことこの上ないだろう、バッタが手伝ってくれるなんて。盗撮ぐらいなら使える。いや使わんけど。
「離せ、この豚やろう」
「いやだから豚じゃないし、握りつぶすわよ」
「いや、やめてくださいバッタ姉さん」
「あのねえ、バッタじゃないからわたしは、わかってるでしょう人間だから、バッタ姉さんなんて言われた日にゃあ握りつぶすわよマジで」
「いや、やめてくださいや、とにかくつぶしてしまうことは姉さんにとってもったいないことです」
私は自分がバッタと当然のようにしゃべっていることに驚かない。
なぜだろう、感覚が鈍ってきたのかこれはただの夢なのか、私は古代から続いている空の色のように当然のこととしてそれを受け入れて軽妙な会話を続けている。これはただの幻聴である可能性が高い。バッタは何やら口をぱくぱくと動かしているだけで、全部私が作り上げた幻聴。もっと気の利いた幻聴であってほしいが。
「手を組みましょう姉さん、世界は我々のものですもう手に入れたも同然です。なんせ人間とバッタのコンビ」
「あまり強さそうじゃないけどそれ、同然じゃないでしょう、世界て結構大きいし」
「いや、バッタの世界では人間の力は偉大です、絶対的なものです」
「ああ、バッタの世界ね、まあそりゃ大きいでしょうね、あるいは世界も視野に入れても大丈夫そう」
「ええこれは固いです。かつてバッタとコンビを組んだ人間がいて」
「かつていたんだへえ」
「伝説ですよ。あっという間に世界を制覇して王国を築きましたね。その後ビジネスをはじめて大きな成功をおさめました」
「何を持ってバッタのビジネスの成功とするのそれ」
「ビジネスと言えばジャンプ力増強サプリメントですよ」
「怪しげな通販みたいな、背が伸びるみたいなのあるわよ」
「本当にジャンプ力が上がるんですから、本物ですよこっちは」
「試したの?あなた」
「もちろんバッタ界のものなら誰でもそれを飲んでるんじゃないですかね」
「すごい影響力」
「なんせ、ジャンプ力上がらなかったら返金ですから」
「聞いたことある文句」
「言うときますけど、こちら200年前から同じ文句ですから、その聞いたことがあるってのこっちが元祖なんで間違いなく」
バッタは胸を張る。胸を張っているのか苦しがっているのか判断に苦しむ。何しろ表情が読めないのだから。
私はバッタを放してやる。
「ふう、力加減、ギリギリですからそれ、あぶないところですから気をつけてくださいよ本当に。まあ、今日のところは帰りますけど、考えといてくださいコンビのこと」
「いや、わたしビジネスにもバッタ界征服にも全く興味ないから受けないと今言っておくわ」
「まあまあ、じっくり考えてください、悪い話じゃないですから、時間は腐るほどあることですし」
「腐るほどもないでしょうに。いまのところわたしのメリットゼロだし、いいからもう即答で」
「では」
「あ、まるおのこと聞きたいんですけどちょっと」
逃げた、バッタは瞬く間に机の上ではねて羽ばたき教室から出て行く。
羽音が響いている。廊下に出たあとも、まだぶうんという羽音がわたしの耳に届いた。
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