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リッスン・トゥ・ハー(夜明け)

で、なんともしっくりこんまま、ふたたび眠ろうたってそりゃねむれんわな。しゃあない。しかし曲がりなりにも、睡眠をとったわけなので、その後なかなか簡単には眠れなくなりました。今、丑三つ時。
本来。
あたしはだいたい毎日零時になる前にお布団被って目を閉じる。朝6時には目がぱちりしている早く起きる。そういう規則正しい生活を続けている。続けていると、そのうち生活リズムが狂うことが苦痛でたまらなくなる。飲み会なんてあった日にゃ、ひとり「おさきにひつれい」と「付き合いの悪いやちゃ」と。しかしどうしても零時になる前に眠りたい。そんで素敵な夢を見て、面長親子とか皆無なあくまでも素敵な夢見て、例えばありえんぐらいの量のプッチンプリン浴びるように浴びて、にゅるにゅるのまま、食い死にする夢とか、いや食い死にはしたくない。食い死に、はしない素敵な夢のあと、朝ぱちりと目を覚まして、冷えた牛乳をぐびぐび飲みたい。飲んでまことに快調な排便を済ませて、ナミのご機嫌を伺って、シャワーとか浴びて、一日をはじめたいのに。
そのためには零時目閉じる。今、丑三つ時、でも仕方ない。おきてもたなら仕方ない。リビングに行って冷蔵庫開ける、ばこん。見渡す限り食材。特筆すべきものはなし。閉める、ばばこん。こういうときはこういうときは、と部屋に戻ってやすもんのギターを握るが、メロディは湧いてこない。あたしの住んでる場所は、町外れ、でお隣さんも厳密に言えばお隣さんも、遠くに離れているので、丑三つ時であろうが、丑四つ時であろうが、かまいしません、かき鳴らしてやってください。ではお言葉に甘えまして。メロディは湧いてこない。不協和音が耳に障るから、かき鳴らしてはいけない。ナミだって聞いているのに?ナミはあたしのギターの音が好きで好きでたまらないのに?これ誰にも言ってないんだけどいつかなんて、あたしのギターに合わせて背びれ揺らしとったからね、確かに。あれは意図的でした。しかしかき鳴らしてはいけない。それは、世界の眠りを覚ます行為だから。眠りを覚ます行為は神である太陽によってのみなされることで、あたしがそれを行ってはならない。
それよか、外にでることにする。あたしが外に出たぐらいじゃ、世界は起きないし。夜空を見る。星がいつくか見えて、しかし星座としてわかったものはなく、思えばあたしは理科嫌いやってんもん、しらーん。てひとりごとつぶやいて、しかしあるやけに光っている星を見つけ、あれはあたし、とする。したんだからよいではないか、町娘よ。あたしがいる宇宙へ思いをはせてみる。
宇宙はきっと、スーパーマーケットみたいな空間で、購買意欲を高める絶妙のタイミングで「タイムサービス開始です」と3割引のシールを貼るベテランの店員やら、そのシールをこれにもはってえや、と寄ってくるおばちゃんや、試食場に張り付いて離れない餓鬼や、その餓鬼をうっとうしがりながらも立場上追い払えないパートや、精力のつく夜食を買いあさるアベックやそんなやつらがまとめて住んでいるような空間だと思う。思いません?いや、イメージよ、イメージ。実際にそういうような人たちがいるわけでなく、イメージにすればスーパーマーケットみたいなんだと思うわけです。ほら、あの、何、ブラックなんたらとか、すべてをなんでもかんでも吸い込むやつね。あれ、すべてなんでもかんでも安くする魔法の割引シールみたいなイメージ。惑星だの銀河だの、ややこしいことは知らないけれど、そう考えたらいろいろ説明がつくじゃないかと思う。春真っ盛りとは言えまだ夜は冷える4月の夜、星は瞬く瞬く、あんまり星が瞬くものだから、夢で見た光、思い出して、あたしは寝巻き用ジャージの裾上げて、半ズボンみたいになったその恰好で、ちょっとコケティッシュな表情で、お財布掴んで、近くの家の近くにかろうじてある自動販売機に向かう。面長のせいで願い叶わなかった炭酸水を買うために。風はもう温い。

炭酸はふたくちで腹に溜まり、ゲップの誘惑に身を任せ、ギター握る。握ったところで音が鳴らない。ハーモニックス。届け。ギター離す。上げてた裾をおろしてベッドに入る。いささか疲れたんで今度こそ寝れそうです、いや寝るんです。そうして朝になるまで、あたしは深い深い底に沈むんです。そう願うしかし、目は冴え渡る。今日の夜は長くなりそうだ。ケータイの電源を消す。世界とのつながりを切る。所詮そんなもんで簡単につながりは切れる。臨海体勢、で臨む夜との対話、ベッドに潜る、音楽を流しながら考える。いつも同じところから。


どこかの自転車置き場。
自転車が溢れかえって、そこは自転車の楽園。いや違うな、地獄。
まあええや、とにかく溢れかえっているから、入れにくいねんて。あーもう、Bm、他所の自転車どかす、どかす、どかす、と繰り返してようやく空いたスペースにねじ込む。膜を破るように、ささと済ませ、あたしは夜明けの珈琲を飲む煙草を吸う男子のように。ねじ込むしかし、それ無理矢理なわけで、がぎ、とどこかとどこかがぶつかりぶつかり振動とともに倒れていく自転車の、スローモーション再生を見ている。
律儀に端まで倒れきりよる。
仕方なし、一台ずつ立てていくけど、何かにつけて何かがひっかかって仕様がない。複雑に絡まる鉄。力の限り持ちあげても、びくともせぬ鉄の塊でしかなく、あたしのかよわきエナジーじゃ。途方に暮れる。具体的に言うと、両手の平を上に向けくいと少し上げてやれやれと溜息をつく。アメリケンヌジョークだといって欲しいものです、それでも、そのまま逃げ去るほどの度胸は持ち合わせておりませんし、やっぱり少しずつ希望を捨てない強い心で、作業に励むあたし、ライオンに立ち向かうヨークシャテリアみたい。こちらを起こす。たびに向うが倒れ。しかし埒あかへんやん。
蝉の声が耳に障る、蝉?
夏ちゃいますやん。春先ですやん。だったらこれは蝉でなく、決して蝉などと言う生物ではなく、自転の音、間違いなく回っている証拠。錆の匂い、手に染み込むから、嫌になる。このままほっといたら、どうなるのでしょうか。倒れているどの自転車かの持ち主が帰ってくる。この惨状に途方に暮れることでしょう。そうして原因を作った誰か、あたしなわけだけど、に強い恨みを抱くことでしょう。強い恨みやがて恋心になって、これ転化ですわ、あたしを追いかける蝉時雨に乗じて唇とか奪いよる。唇奪われたら最後、ふつつかですが嫁としてよろしくお願いします。という展開が待っているから、そうならないためにも、全て元通りにしなければならない、と思う。

いくらか時間が進んで、倒れた自転車はごく少数に、ようやく出口が見えた頃。
青がイメージカラーのコンビニエンスストアの前に停まっていたらよく栄えるであろう赤い自転車に手をかけまして、よしっしょ持ち上げようとしたところ、こちらをじぃと見つめる視線感じた。
その視線は窓の隙間から風呂場を覗いているかのような視線で、どこかおどおどしててしかし決して何一つ見逃すまいという決意があって、あたしはいてもたってもいられない。しかし、ここでストップしそちらをまざまざ窺うということは、その視線の主と確実に目を合わせなければならないわけです。また窺わないとしても、ただ手を止めるという行為そのものが、視線の主に、俺を意識してる、みたいに思われてしまいかねない、そういった心理戦はごめんです。だから、あえて何もないというように、赤い自転車を起こすのですけれど、その絡まり具合がまた絶妙で、難易度の高い絡まり具合で、がたがたなかなか起こすことができない。そうするとますます焦るし、面白がってますますじぃと見るし、ますます焦るし、それがループする。もうこれ以上耐えられない、もうこれ以上耐えられない、と視線の先に顔を向けたその時、気付けば額にずいぶん汗かいたせいもあり、眼鏡大きくずれ地面に落ちた。
とたんに不安になる。
ここはどこ。
視線のもとどころの話じゃない、落ちた眼鏡を拾おうと目を凝らしてみるけれど、ぼやけたぼやけた世界の底は深い。そうなるとほんと他に意識が向かない。ただただ目を凝らして探す命。必死で探す命。
したら「どうぞ」と言われて、渡されてから、視線の主が近づいてきてて、拾ってくれたと気付いた。
「ああこれはこれは」
しどろもどろ、眼鏡受け取って「ありがとうございます」礼を言う。
こやついい奴ではないか。だったらあの視線はなんだったのだ。そもそもあの時点でいい奴の本領を発揮しておけばこんなことにならなかったので、だったらいい奴じゃないし。とか思って、受け取った眼鏡をかけた頃には「じゃ」と言って後ろ姿。ぢやてなんだよ。なぜか胸が高鳴ってその背中いつまでも見つめていた。
残ったもの、倒れた自転車。
25歳眼鏡。
何も解決してないよ。
眼鏡拾っただけだ、実際全然負けてないけど、完全に負けた。
それから、ぶつぶつ何かつぶやきながらあたしは自転車をすべて起こし、それから、ここになぜ自転車を置くのか、いったい何をしに来たのか忘れてしまい、何か釈然としないまま。季節変わるまでそこに立っていた。

用を済ませて戻ってきたら、あたしの自転車にはサドルがありません。盗人によって盗まれてしまいました。サドルの取られた自転車は、どこかぎこちなくそこに停まっていて、しかし妙に落ち着いているようで、最初サドルが盗まれていることなど気付かず、鍵を外し、そして、跨って乗ろうとしてはじめて、ん、となって。まじでえ、とつぶやいたのです。これではどうも、うまく乗れやしない、いや、乗れることは乗れるんでしょうけど、常時立ちこぎやがな。常時戦闘、休息の時間はなし。これは体力が消耗すること間違いなし。それでは仕方ないのでどうにか解決策を考えてみる。サドルの変わりになるものをつける。サドルの変わりになるものとはなんぞや。結論、ない。あったとしても、町工場で随分加工してもらってようやく変わりになるぐらいだ。今ここに変わりになるものなんてあるわきゃない。犯人を追う。どこに逃げたか知らないが、サドルを盗んだ犯人を捕まえて問いただせば、あのサドルはスイス銀行にふりこみました、とか白状してあたしご満悦にスイスに赴く。しかし、果たして犯人が捕まえられるのか。犯罪者はよく、犯行現場に戻ってくる、と言われる。戻ってきている?そして、あたしの慌て具合をあざ笑っている?そんなそぶり見せてはいけない。そしたら負けだ。負けてばかりなのにこれ以上。と念のためさりげなくあたり見渡すが、人っ子一人いない昼下がり。見渡す、と、あれ、サドルは山ほどあることに気付く。あ、山ほどあるやん。中にはあきらかに長い年月ここで過ごし、いくつもの嵐にさらされたような自転車もある。埃がコーティングされて、羽毛のようなほわほわ感を醸し出しているような自転車。それらは持ち主がこぬ可能性が極めて高いのではないか。いや、そうに違いない。だったらそれらの内どれか1つを引き抜いて「ちょっと借りますわよおほほほほほ」かなんかつぶやきながら、あたしの自転車につけたなら、多少ご自慢のヒップは汚れるけれど、一時的なしのぎとしてはなんら問題なくってよ。そして、その後いいサドルを見つけて取り替えたなら、あたしはちゃんとここにやってきて、そして借りたサドルを返します。よし、じゃそうしますよ、て物色します。まあ、いうても一時しのぎですから、本皮仕様にする必要はなし。とにかく貫禄のある、もう10年ほど使っとりませんのよ、と訴えてくるようなものをぬぽと抜けばいい。
そうしてすぐ近くにあった、古めかしいサドルを見つけ、それを引き抜こうとする。がしかし、古めかしいこの方錆ついたボディなわけで、なかなか取れへん。うむ。握力15キログラムの小娘じゃ問題ならぬわぬははは、とあざ笑っているのが聞こえてくる。かのようにびくともしない。
あたし、いったん休憩、したのはいいけど、休憩したところでいくらか体力は回復したとしても、握力15キログラムは変わるわけがなく、デビルマンレディなら、こんなさびた自転車軽く握り潰すだろうけど、あたしは握力15キログラムだから、まことに遺憾ではありますが諦める。

しゃーあらへん、古すぎるとこれだ、あたしじゃ引き抜けないからもう少し新しいのを狙う事としよう。と再び物色をはじめ、これまた近くに見つけた古すぎず新しすぎず、かといってうまからずのサドルに手をかけた。ぐいぐいとサドルと本体を固定しているネジを回して緩くなったところを、一気に一気にです、引き抜けばこんにちは、あたしが新しいお母さんですよ。ほおら乳をやろうか、とあいさつ交わして、そんなことしとる場合やない、あたしの自転車につけなあきません、と急いで差し込もうとしたが、太さが合わない。規格合わせろや。とあたしは心の奥底で叫び、しかし折角の赤ちゃん、頬にチュウして元に戻そうと。元に戻そうとしたところ、「盗人」の叫び声が深く突き刺さる。
言い訳しながら振り返る「いや違います。わたし盗人ちゃいます」

ポリスは半笑いでそこに立っていた。

「違うんです、用を済ませて戻ってきたらこの様で、そうだおまわりさん盗人はまだ近くにいるかもしれません。早く探してください、いや、なんですかその眼は、あ、これですか?これはこの自転車のサドルですが何か?ええ、ええ、この自転車はわたしの自転車ではありませんが。ええ、ええ、違うんです、ああええと説明すると長くなりますけどいいですか?忙しいのでは?そうですか、とにかく説明すればよいわけですね。わかりました。でも、最初にこれだけは言わせてください、ごめんなさいもうしません。

「まず、最初にもいいましたように、用を済ませて戻ってきたらですね、あ、用というのは、ただのレンタルビデオの返却です。借りたビデオはといいますと、あ、はいビデオではなくDVDです、その通りです。DVDはいいから、用を済ませて戻った以降を話せ?ごもっともいちいちごもっとも。そうそう、帰ってきて自転車に乗ろうとしたんです。そしたらサドルがありません。その時のあたしの嘆きといったら、カーニバルが過ぎてしまった後のような悲しさです。あ、同情は無用です。そうやって慰めてくれる人に限って結局何も分かっちゃいないんですから。それで、そうです、とにかくサドルが盗まれていたわけです。わたしはそれはそれは思案をめぐらしました。フル回転させました。そして残念ながらどうしてもサドルは産み落とせないという結論に達しました。結論に達したのです。

「それからあとは余り憶えていません。気付いたら、適当な自転車のサドルを引き抜いて、そのサドルを持っていて、これはどうしたのかしらん。神様がわたしに与えてくれたのかしらん。そう思いました。そこで、そうと決まれば話は早い。わたしは自転車につけてみようとしました。あくまでもつけるだけです。つけたらすぐ外して、元の位置に戻そうと、そう思いました。その帰り際が現在というわけです。ですから、盗人では決してないわけです。分かっていただけましたでしょうか?分からない?うむ。仕方ありませんね。ではこう考えてください。わたしのサドルを盗んだもの、それがすべてのはじまり。故にそのものこそ、ひっとらえてわたしのサドルを戻し、鞭打ちにでも何でもお好きなようになさいませ。

どういうわけかそのうち、しゃべりつづけているのはあたしではなく、ポリスがしゃべっているのをただ聞いているかのような気がしてきた。ポリスがあたしの代弁者で、あたしがその意思を自在に操る黒幕で。

「いいでしょう。いいでしょう。とにかく聞いてください。あたしの話を聞いてください。そしたらなんでもします、なんでも要求に応じます。要相談です。そもそも、あたしは生まれた時から、このサドルを持っていたのです。なぜなら、なぜなら、マアムは自転車屋さんの子供、いや、本当です。嘘偽りなく自転車屋さんなんです。自転車屋さんの娘をもらったダッドの喜びたあないぜ。サドルをもって生まれてきても不思議ではない。そう。あたしは自転車屋の看板娘の娘なんですから。思えば幼少期よりサドルが付きまとっていました。サドルがマアム代わりでした。ああ、マアムはたいそう忙しい人で、あたしのことを育てる暇のないぐらいでしたので、サドルの乳飲んで育ったわけです。

「なんですか、その眼。サドルから母乳は出ますよ。紛れもない事実。サドルの本当の姿を知らないんだははーん。それはそれは、不幸な方だ。認めたくないのは分かりますが、事実を事実として受け止めないと、まずそこからだよ。まだ若いんだから、そんなに固定観念でがちがちに固めてちゃいけない。この眼鏡が。歩く前に、まず立ち上がらないといけないのだよ。いきなり歩き出してはダメ、ぐちゃぐちゃになるから、絡まりあっておけるから。まず立ち上がらないといけないわけ、分かる。そう、そう。サドルにだって主張はあるわけ、それをちゃんと聞いてあげなきゃいけないわけ、あたしがママなわけ、お酒ちょうだいできるかしら。わけ。わけ。あハン、あジャパン、あハン。わけ。わけけけけけけけけけっけけけけけけけっけけけけけっけけけけけけけ」

ポリス狂おしい表情で、け、が喉につかえて停止する。思考の停止と世界のはじまり。それからポリスは鬼気としてあたしのほうに迫ってくる。
「サドルの乳はいらぬか乳はいらぬか」
「いりません、いりません」といいながら逃げるしかないし、
とりあえず走り出す。すぐに息が切れて苦しくなったけど、ポリスは変わらぬスピードで迫りくるから止まるわけにはいかないし、非常にまずいことになったものだ。奴の頭打ち抜くしかないのか、とか思いながらどんどん走っていきますと、後ろやけに騒がしいので振り返る。ドラッグストア以来の面長と息子がポリスの横について迫る。
「ユーの痛みはミーの痛み」「おばちゃん、足ふっといなぁ」
「いや、そうではないです」「じゃかましいぼけぇ」
といいながらさらに逃げるしか道はなし。
もう息が上がってぜいぜいいうとりますが、止まるわけにはいきません。仕方ない、命の限り走るしかない。走れ。さあ、走れ今だ、今一生分走るんだ。メロスよ。

どうしてもしんどくなって、あたしそんな根性とかあるほうやないし、文科系で、縦社会とか知らんあまちゃんやし、もういいです、どうなってもいいです。思て少しスピード緩めたんです、したら、あたしの隣、並走する人、全く無駄のないしなやか過ぎて見とれてしまう足で。顔はわかりません、サングラスしてたし、キャップも深く被ってたし、でもあたしはわかりました、ナミだ。なんだかんだいうてあたしのことが気になっているんだ、そんなのはナミだけだ。ナミが隣で走ってくれている、そう思うとあたしもう少しだけ走ってみようという気になって、スピード戻した。いや、上がった。確かにスピードが上がった。どんどん引き離していく快感はやがて、ナミを抱きしめたいという欲望に変わって、だってこんなにも可愛らしいナミなんですもの。抱きしめたって減るもんじゃないし。いいじゃなりませんか。ああ、ナミ、抱きたいわ。
ポリス一行を引き離して米粒ぐらいになった頃、
あたしナミの口吸う、ちょうどあった木陰で、口吸って、下からませたりして、官能的な声あげて、しばしのご歓談を。
ナミったら、ナミったら。うふふふ。でひとつになってみた。それは種族を超えた交配で、雌雄同体かなんかしらんが、まあ厳密に言えばナミは女の子として飼ってるんだから、レズビアンで交配ではないのかしらん、がまあ記念すべき気持ち的には立派な交配ですよ。あたしもう人間じゃなくてもいいです。そこに生きる場を手に入れたハレルヤ。
としとるあいだにポリス一行すぐそこまできとる。
この甘い時間を返せぼけ。
ナミはあたしの中で溶けちゃった。にゅるにゅる。になって溶けちゃった。うろこが残って気持ち悪い。けどナミだと思うと気にならないから不思議です。すぐに脱いでた服を着て、逃げることをした。
で、体力回復したし、ナミの体力も手に入れたわけで、なんとかどんどん止まらず進みますわね。しかし当然3人だって追うことをやめません。街を進みます。風景追い抜かして、いると、後ろ、マアムとダッドの声、談笑する声。振り返ると、ポリスの隣の面長の隣の息子の隣にいて談笑しながらあたしを追ってくる。髪振り乱して談笑している。どいうこと?ああ、もう、いいかこれ所詮仮想現実。グランマだってその後ろから当然ついてきているし、親戚だってついてきてるし、友達だってしらないしとだって、先生だって、幼稚園児だって、ラッパとか吹きながらついてくるし、その後ろサンバ隊がいて、大名行列がいて、ライオンだって、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ友達ではありません、誰一人あたしの話聞いてくれないもの。それじゃそのまま逃げ続けるのですけれど、あたし先頭に宇宙の誰もが走っていて、そのうち雲をかすめて、空を超えた。地球を超えた。太陽を超えた。銀河を超えた。宇宙の端についた、

ら咲いた。

夢か、夢でないか、意識はっきりしてるし。
金魚とひとつになった。それは確かだ。
何をする気もおこらないし、水草に被われた水槽を見る。
中で泳ぐ太り気味の金魚がいる。

あたしはナミに餌をやる、餌をやる、餌をやる。
お前は何も考えずに、ただあたしのあげる餌を食っているだけで、何も考えずに、それがどんなに罪なことか分かるか。もしもあたしが餌をやらなんだなら、お前は泳げなくなるわけ、そんなにくりくり尾びれ動かせなくなるわけ。あたしが餌やらなんだなら、まず、動かすのが億劫になって、やる気がなくなるわけ。やがて、何か大きな力のせいで、動きたいのに動かない、とばしゃばしゃ嘆いてみてもあたしの意志は固いから、やがて、何も感じなくなって、やがて、宇宙にたどり着くんでしょう。そしたら、きっとナミあんたあたしに感謝するでしょうよ。そうなればあたしが神でしょうよ。分かるかな。分からないだろうな。きっと。

ナミは食うのをやめない。

ほんの少し気の抜けた。炭酸水を飲む。ナミに餌をやる。
ナミは餌を食う。あたしは眠れず、夜の闇の隅で、立っていて、ナミに餌をやっていて、これたしか昨日とまるで同じ、だったら明日も明後日も明々後日も同じ。足先が冷たいのは、春先だからでしょうか。違います。消えかかっている存在が、あたしという存在が消えかかっているせいです。右耳から入ってきた音は、すぐに左耳から出て行かずにあたしの頭の中暴れまわって、痛めつけるからだ。きっとそうだ。だからこんなにも胸が痛むのか君のせいではないわけだ、ナミ。ナミは赤い、わりと自然色でそろえた部屋の中、目立つ、そうか目立ちたくないのね?赤は嫌だもんね、あたしたちひとつになれたから、分かっている。何もかも分かってるから心配しないで。ナミ愛してる。からさあ、自由にしたげるから。真っ黒に。

あたしは机の中かき回して取り出したる墨汁、ナミの水槽にどぼどぼと注ぎ込む。途端に黒が透明な水を犯していく、刹那、ナミは餌を食い続け、飽きることなく食い続け。ああ、なんて阿呆面。可愛い。あたしもやがて、そういう感じで。誰かがちかくにいるんでしょうか。ああさっきからあたし息してたっけ?息するって何ですっけ?恋する権利を失ったんですっけ?最大限度に頭使ったら痛くなった。もうしらん分からん、けど、赤いナミはまだパクパク口動かして食ってるし、あたしは一定のリズムで餌を投入し続けているし、とても不安で心苦しいあたしは、カンカン鳴っている、どこかで凄い音量でカンカン鳴っている。炭酸が床に散乱する。あたしは、ああ、誰か、聞いて、あたしの話を。すっかり真っ黒になった水槽が目に映る。いや、移っているのは現実でなくて、仮想現実ですから。そして、あたしはどこにいて、これからどこに行くのでしょう。

「ああ誰か聞いてあたしの話を」

ナミは赤いまま水面に阿呆な顔して浮かんできた。
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