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金魚師匠のため

金魚師匠は奥手でなかなか浮かんでこない。それはもう奥手の中の奥手だから、と一番弟子のメダカ兄さんは打ち上げの席で話していた。以下メダカ兄さんの証言。金魚師匠が浮かんでくるとき、それは生死の境目を彷徨っているとき、もうどうでもいいやとあきらめかけたとき、ふんわりと浮かんできて、師匠は目を見開く。危険だという合図だ。メダカ兄さんやそのほかの弟子はすぐに師匠の元に向わなければならない。助けるのではない。あくまでも金魚師匠の意思を尊重しなければならない。もとに向うのは遺言を聞かなければならないからだ。誰が金魚師匠の名前を継ぐか、それは最後に伝えると師匠自ら公言している。誰も金魚師匠の名前を継ぎたくて仕方ない。金魚師匠の名前を継ぐこと、それは長い金魚の歴史の中に存在を残すことに他ならないからだ。それ以外に浮かんでくることはない。ずっと置くに沈んだまま微動だにしない。本当に動かないのだ。目を閉じているから、誤解されやすい。もう金魚師匠は生命活動をしていないのではないかと。ちゃんと活動している。時々エサも食う。弟子の誰かが運んできた小さな生物を食う。ぱくぱくと口を動かしている。それだけだ。別に噺をするわけでもなく、口をパクパクさせる。信じられないことだけれど、それで成り立っている。金魚師匠の芸はそれで成り立っているのだ。なぜかって、師匠はエサがない時だってぱくぱくしていて、それはまるでエサを食っているような躍動感で、その師匠のエサに対する無限の愛情を、ほとばしる情熱を感じることができるからだ。見たものは口を揃えて、名人、と叫ぶ。師匠の師匠たる所以なのだ。
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