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お好みやいた

 らつらつらつ、猫背、母。丸々として大きなキャベツを刻む。
 丸ごと一つ、小分けにして、包丁でリズミカルにらつらつらつ。
 ちょうど2週間前、そのずっしりと丸い見事なキャベツを作ったばあちゃんは死んだ。
 大病を患いそれでも、私は治るつもりでおる、と病気に立ち向かい、打ち克つつもりで挑んだばあちゃんを、実の娘である母は、仕事を休んで支えた。
「出来なかった親孝行をさせてもらっとんや」
 母は力なく笑った。
 祈りにも似たふたりの(もちろん私を含めた家族の)奮闘は天に通じず、おばあちゃんは徐々に弱り、自分でできる事が一つずつ減り、何も、水さえも飲み込む事ができなくなる。眠っていることが多くなる。やがて意識をなくす。
 呼吸を止める。
 母は黙って、ばあちゃんの手を握り締めていた。
 戻ってきなと、小さく呼びかけていた。

 笑顔で、親戚のおばちゃんやらおっちゃんやら従兄弟やらがきては悲しい顔をしても、母は凛として笑い続けた。
 だいたい寂しい顔ができるほどゆっくりもできなかった。
 通夜やら葬式やら、香典返しがどうとかこうとか、一人の人間が死ぬということはこれほどまでに次から次へとしなければならないことがあるのかと思うほどの忙しさだった。だから哀しむ暇なんてなかったのかもしれない。
 それが過ぎると、日常が戻ってくる。半年休んだ母も職場へ復帰しなければならない。
 そうやって忘れていくのかもしれない。

 しゃくしゃくしゃくと音が徐々に変化。
 らつらつらつからしゃくしゃくしゃくへ、細かく、小さく、キャベツから出る水分は音を吸収して逃がさない。
 くくくくく、いうまな板を叩く音になったらもうほとんど完成だ。
 そうなるまで刻まなければならない。
 キャベツは小さく刻まなければならないのだ。
 おばあちゃんが招致しなかった。おばあちゃんの好物はお好み焼で、何かこだわりがあるら悪しく、キャベツは細かくとことん細かく、と口を酸っぱくしていっていたものだ。おばあちゃんの指示通りに作ればそれだけで美味しいお好み焼きが焼けた。
 テレビから流れてくる音楽だけで、母の刻む音は部屋中にある。
 いくら小さくなっても、なくならない。母は、刻む事をやめない。
 母の猫背の背中が震えていた。
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[C373] unknowN

リズミカルさはいつも心がけている事で、擬音はとても難しくて、しっくりくる擬音を探して探して、と苦労します。

ですから、その辺の反応があるととても嬉しいですありがとう。

感情をどこまで見せるか、のバランスも難しいころで、直接的な表現でなく、ほのかに想像させるぐらいに留めておいた方がいいのかな。
考え出すときりがありません。

また色々実験的に書いてみる事にします。
  • 2008-06-07 08:03
  • なゆら
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  • 編集

[C374] Unknown

これはいいですね。

擬音語を巧みに用いてとてもリズミカルなんですが、それでいて静かで厳かな感情の移ろいを感じます。哀しくて美しい詩だと思います。
  • 2008-06-06 17:53
  • 三四郎
  • URL
  • 編集

[C375] unknowN

つくしさん

たまには揺さぶってみました。
これを読んでくれる人がいるということがいる、それだけで浄化されるいくつかの魂のようなものがあります。
何の意義もないのに、文章を組み立ててああ、良かったと思う瞬間があります。
それはまぎれもなく今です。ありがとうございます。
空豆さんとのバンド、期待の目で見てしまいますよ。

正直、半々といったところ。


師匠さん

お好みのキャベツは粉雪のように細かくし、生地1:キャベツ9の割合で、卵は一人ひとつ以上、てんかすを忘れずに混ぜ込みましょう。そして、息をするのも忘れてひたすら混ぜる事約1分、熱せられたホットプレートかフライパンの上に流し込み、あとは適当に焼くだけ。これだけであら不思議、美味しいぜひ、極めてください。お好みの上手い人として重宝がられるでしょう。

天才よ、料理に目ざめるのか!
  • 2008-06-05 01:18
  • なゆら
  • URL
  • 編集

[C376] Unknown

一人暮らしになって初めてキャベツを刻んだとき、なんか少年のような爽快な気分になった覚えがあります。
  • 2008-06-03 14:43
  • 師匠
  • URL
  • 編集

[C377] Unknown

実話か創作かの詮索は致しませんが、感情を揺さぶられました。
  • 2008-06-03 04:20
  • つくし
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