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情には流されずに笑う2

(天狗蕎麦長野編3)

天狗である。
天狗はその風呂場の天井近くを走る梁に腰掛けてこちらを覗っている。
何をするわけでもなく、その長い鼻を下に垂らして、わたしを釣り上げるように仕組んでいるのか熱心にこちらをうかがっている。赤い頬がよりいっそう赤くなったような気がする。湯気がもうもうと立ち込めるが、天井近くは外につながっており、すぐに外へ抜けていく為、風呂場時代は実にクリアである。肌の細かい皺なども梁からならば見たいだけ見ることが出来る状態。

さて音もなく降りてきた天狗、服を脱いで、いや、脱いだと言うよりは服は水に使えて溶けてしまったように見えた、湯船に浸かる。
わたしは何も言わないで黙々と体を洗っていた。

天狗が何者であろうと別にかまわない。不審者であっても別に良い。
あれだけ身のこなしが巧みならわたしは逃げるすべなどない。
だったら堂々としてたほうがなんかカッコよくない。とか考えながら淡々とわたしはどんどん清潔になりつつある。
この機会だから普段洗えないような隅々までがんがんあらうわよ、てなものである。
横目で天狗を見る。
天狗は私のことなど興味のないようにふうううう、と息を吐いた。湯は熱いのだろうか、赤い頬がまたさらに赤く染まる。茹蛸そのままの形相に、長い鼻は湯に浸かるか浸からぬかぎりぎりのラインを維持している。
ふううう、風呂中に響いていく、こだまする。水の流れる音にかき消されるが、天狗は何度もふううう息を吐くので、だんだんそれが風呂の一部の音のように思えてくる。
実際一部なのかもしれない、わたしが天狗のため息吐息だと思っているものは風呂が奏でる何か仕組みの音なのかもしれない。ざぶんいわして湯を体にかける。
同時に天狗の方を見ると、そこに天狗はいなくて、ぷかぷかと浮いている一枚のカード。
レモン味チューイングガムの包み紙。風呂はふうううう、と鳴る。
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