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読み解く人

いらっしゃいとだけ、爺は言った。そして椅子に座らされた。爺は書類を読んでいる。私のことが書いてある書類をしばらく読んでから顔を上げた。私の情報と、顔を見比べる。そうギャップはなかったようだ。爺は包丁を手にし、私の腹を割いていく。まず臓物を取り除くんだ。そうしないと匂いが悪くなるからね。もちろんあとでつかうよ、別の用途に使うから大丈夫、とその目は語っている。大分、取り除いてから、今度は背を開く。3枚におろせば一番使い勝手がいい。古来より用いられた手法を爺はなぞっていく。取り除いた臓物を少し、人差し指ですくいとって舐める。それで鮮度がわかるらしい。寄生虫やなんやと細かいことは気にしない。それが爺のいいところだ。申し分なし、とつぶやく。造りにしようか、迷っている。造りは注文が入ればいいが、足が速いため、躊躇される。三枚におろされた私は吊るされている。そこからナイフで少しずつ切り取られて食べられる。美味、と言われる。あるいはトレビアンと言われる。その度に私は震える。芯から震えるのだ。

正しい深呼吸

吐いて、吐いて、吐いて。まず吐ききることからはじめよう。自分の中にある空気を、体に満ちている空気をすべて吐ききるイメージで吐いてみる。吐いてみる。そう、なんなら魂も吐き出す。勢いをつければ吐き出せる。限界を超えるんだ。人間やればなんでもできるんだから。そう、いいねえ、出てるよ、いっぱい出てるよ魂、空に浮かんで踊ってやがる。何楽しんでんだてめえ。こっちは遊びじゃねえんだ。命とチャーシューメン1杯かけてやってるんだ、へらへらすんない。ほら、今、お前は空っぽ。なんにもない、空洞です、空っぽの入れ物がぼうっと立っててこっちを見てやがるよ。意思なんてないよ、空っぽなんだから。大丈夫、そんな不安な目をしなくてもいい。あとで戻ってくる、戻ってきたら適当に餌と水をやって、散歩に連れて行ってやること。で、ほら、入れ物よ、労働の時間だ。さっき言っただろ、入れ物に意志はない。ただ従うだけ、この黒スーツに従っていればいい。え、戻ってきた。魂が?残念、閉じ込めてあるよ、この先祖代々伝わる壷に閉じ込めたんだ。お前はこの中にいるんだよ、戻ってきたと思ってるもんは、狐、気づいてないと思うから言うけど、お前コンコン言ってるからね。たまたま俺が狐の言葉をわかるから良かったけど。母親だったら卒倒してるかもしれんぜ。いい?狐なんだからそんな獣の意志に従わずにね、黒スーツに従ってもらわないと、壷の中の彼女が悲しむよ。さあ、労働しよう、服を脱いで。

紙食い虫

しろやぎさんからお手紙着いた。
何やら怪しい色のお手紙で、私はそれをじっと見つめた。
以前から、しろやぎさんは私に対して執拗ないたづらを仕掛けてくるしろやぎさんだ。
またなにか仕掛けがあるに違いない。
そういえば、あの部屋の隅にカメラが仕掛けてあるような気がしてくる。
私のリアクションを録画しているに違いない。
私はおもしろおかしくリアクションをした方がいいのだろうか。
それとも、一蹴すべきなのか。
そんないたづら、お見通しよ、と一蹴してしろやぎさんに引導を渡すべきだろうか。
わからない。
私は考えるくろやぎだ。
わからないが、うまそうだ。
ごまドレッシングをかけたら、ちょうどいい。
いやかけなくても、十分うまそうだ。
一口だけ食べてみるのも、やぎ冥利に尽きる。

くろやぎさんたらお手紙食べた。
予想通りのうまさだ、いや、予想をはるかに上回るうまさだ。
味はほとんどない。
ドレッシングもかけていないから当然だ。
けれどもそこはかとなく漂ってくる香りがある。
これはしろやぎさんの匂いかもしれない。
それに私は反応している。
うまいと脳がつぶやいている。
しろやぎさんは、あるいは私にむけて重要なことを伝えたかったのかもしれない。
その本能が、手紙に乗り移りて、それを食った私に語りかけているのか。
だったら、なおさら手紙を読んでから食うべきだった。
しかたがないのでお手紙書いた。
書こうとしたが筆が進まない。
私に非がある。
だから何よりもまず一言謝らないといけない。
けれども、私にもプライドがある。
欲望に負けて手紙を読む前に食ったのだとあっけらかんと言えたらなあ。
色々考えて私は、違うんだしろやぎさん、からはじめた。
『違うんだしろやぎさん。手紙を読まずに食ってしまって、その内容を知るために手紙を書いているわけじゃない。これはあくまでも生存確認だ。定期的に確認は必要だろう?手紙はもちろんうまかったよ、隅々まで一つ残らずうまかった。立派な紙だ。料亭のお通しかと思ったぐらいだ。あまりのうまさに思わず意識が飛んでね、前後の記憶がなくなってしまったんだ。手紙の内容がね、どうもあやふやなんだ。忘れたわけじゃないけれど、念のため教えてほしい』
そして最後に書き加えた。
さっきの手紙のご用事なあに。


くろやぎさんからお手紙着いた。
来たか!と思った。
俺は手紙を書いた。
電子メールが浸透して以来手紙など久しく書いていない。
その俺が手紙を書いたのだ。
返事が来た。
しろやぎさんはどう答えたのだろう、実に興味深い。
俺の手紙はシンプルだった。
時候の挨拶など知らんから、単刀直入に用件のみ書いた。
それは失礼だったかもしれぬ。
なんでも形式を重んじるしろやぎさんだ。
礼儀を知らぬやぎがと罵っているのかもしれない。
そう思うと手紙が開けない。
俺は繊細なやぎだ。
がさつだと思われているが、繊細で陰気なやぎだ。
やぎ以下だ。
そう、ひつじだ。
俺はしろひつじやぎたろうだ。
ダメな存在だ。
俺はダメだ。
くずだ。
くず。

しろやぎさんたらお手紙食べた
気づいたら手紙を食っていた。
無意識がそうさせた。
くずらしいことをしてやろうと脳が命令した。
手紙はうまくもない。
なにせひつじなのだから。
なくなってから、手紙の存在が俺に重くのしかかる。
くろやぎさんはどう答えたのか。
それを知るまでは、おちおち風呂も入れない。
背後にくろやぎさんの気配を感じてしまう。
なにせ黒だ。
楽太郎だって黒と言われていた時代がある。
よからぬことをみんなに言いふらすかもしれない。
しろひつじやぎたろうはやぎでもないのに手紙を食った。
読む前に食うなんざ、やくざのすることだ。
みんな近づかない方がいい。
それは避けたい。
俺だって群れたい。
孤独は毒だ。

仕方がないのでお手紙書いた。
返事を仮定した。
俺が書いた手紙の返事を仮定して、その返事を書いた。
スチールパンがきゅいいんと鳴ったのだ。
はっとした。
俺は馬鹿だ。
馬鹿なひつじだ。
群れを欲した。
ひつじだから仕方ない。
くろやぎさんに一矢報いる。
そう思って返事を書く。
わけわからんわ、と唸ればいい。
いや、おそらく、くろやぎさんは気にしないだろう。
なにも気にせずに、ただにゅうめんをすするだろう。
乙な味よ、とつぶやくだけだ。
群れたひつじがなんだという。
これは逆に危険。
思考は回り回って結論は出ないまま、ほとんど腕が勝手に動いて俺は一言だけ書いた。
さっきの手紙のご用事なあに。

唇を舐める女のブルース

口紅を薄く引いたらさようなら、別れ際ぐらいきれいでいたいの。
あなたは何か言いたそうな顔で、あたしのグラスをじっと見ている。言いたいことがあるなら言えばいいのに。
本当は、あたしだって別れたくない。どころか、もっと一緒にいたい、けれどそれだけつらくなる。
どう転んでもあたしとあなたは幸せになれない。最初からわかっていた、割り切ってつきあうつもりだった、あたしもあなたも。少し深く入りすぎたのよね。こうなる前に別れるべきだった。いけないと気づきつつ回数を重ねた。あたしはあなたなしでは生きられなくなる予感があった。
実際、生きられないから死ぬつもり。
別れた後、そのままどこか高い場所に行って、飛び降りる。
もしくは農薬なんかの毒を飲む。
もしくは鋭利な刃物で手首を切る。
もしくは風呂に顔を付けて水をたくさん飲む。
もしくはスナイパーに狙わせる。
熊出没注意の野道に座る。
すごく熱いラーメンを頭からかぶる。
自ら呪いをかける。
メガンテを唱える。

「リレミトを唱える」武男?
「毛布で包んで唇を奪う」武男、あたしあなたがすきですきでたまらないの。
「僕だよひかり」けれどもうダメなの、このあとすぐに手榴弾を飲み込むつもりなの。
「ひかり、そんな手榴弾に口づけして黙らせる」
もしくは通過する電車に向かって飛び込む。
「そんな電車に口づけして黙らせる」
首に縄をかけてぶら下がる。
「縄に口づけ」

どうしてあたしの自由にさせてくれないの、それならいっそのこと武男を刺す。
「むろん武男に口づけだ」
武男に?「口づけだ」
誰が?「むろん武男が、だ」
武男に?「口づけだ」
どうやって?「まず、片方の武男の注意をそらす」
片方の武男?「そしてもう片方の武男を促す」
うながす?「口づけしてこいよって促す」
さらなる武男がでてきた!「武男パラダイスさ」
パラダイス?

「さて、武男を口づけで黙らせた武男はかすかに頬を染めているし、口づけされた方もその余韻にひたっている、それを見ている武男は腕組みして満足そうにうなづいている。通りかかった年配の武男は冷やかすし、散歩させていた武雄がふいに糞をしたので、あわてて処理をする。つよい春武男が吹く。すっかり春だなあと武男はつぶやく。ほら、武男がひょっこりと地面から顔を出している。これは卵でとじたらうまいんだぞ、と父武男は息子武男に教えている」

そのパラダイスにあたしはいるの?
「ひかり武男、さあ、おいで」
あたしは、ひかり武男なの?
「こっちで武男、武男武男。武男武男武男」
武男。

野郎、ガールに奢ってやがる

野郎、ガールに奢ってやがる。ガールに気に入られようと必死になってやがる。そんな姑息さが逆に嫌われることを知らないでやがる。俺はつんとしてガールを無視する。お前には興味がないんだぜ、というそぶりを見せる。これが俺のやり方だ。そのうちふらふらっとガールはやってくるだろう。俺の背中から発せられるオーラにふらふらっとやられるに違いない。そしたらようやくガールの目を見て言うぜ。俺はお前が気になって仕方ないんだ、さあこっちで一緒に飲もうぜ。夜ははじまったばかりだ。

野郎、ガールを無視してやがる。阿呆丸出しだ。ガールは気にかけられてなんぼ、と思うものだ。無視して釣ろうなんざ甘い甘い。だからお前はいい歳なのに未婚なんだ。それに気づいていない。まだ幻想を抱き続けてやがる。親が泣いてたぞ。だいたい無視してるつもりらしいが、全く無視できてない。むしろ気になって仕方ないように見える。ガールをなめるなよ。お前の魂胆なんか全部ばれてる。その上でガールは踊る戦略なんだよ。俺は奢るぜ、金はあまりないが、この日のために寝る間を惜しんで内職をした。まだ余裕はあるんだ。さあ、俺のガールよ、何がいい?強いのか?弱いのか?

野郎、ガールに奢ってやがる。そうやってむしり取られてさようならだ。ガールに金を使っちゃいけない。悲しい結末へ向かってまっしぐらだ。俺を見ろ、この凛とした姿、なにも語らず、ただ、グラスを傾けるちびちびやってときどきぐいっとね。その緩急?メリハリが大切。

野郎、ガールを無視してやがる。いい加減、気づけよ、無視できてないって、ばれてるって。瞳がひくひくしてるじゃない。それ、気になって仕方ないってことだし、唇だってもう、ふるふるして語りたがってる、無理すんなよ。おしゃべりなのは昔からだ。ガールに思い切り、おもしろエピソードをぶちまけろよ。

野郎、そんな饒舌な唇を奪ってやる。突然奪ったらびっくりするだろう。びくっとなったあとにかすかに笑って、舌を絡ませてくるだろう。野郎、可愛いやつだ。

野郎、その背中を抱きしめたい。でっかーい背中とても素敵で胸がドキドキする。何?なんで見つめてくるの、ガールになっちゃう、いやん、唇、奪われた。

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Author:なゆら06
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